第10章 聖者の晩餐
廃棄区画内に、静かに雪は降り出した。
まだ、降り始めたばかりなのか、“冬景色”と言うには程遠い光景である。
けれども、その氷の結晶は、微かに聞こえるパトカーのサイレンと共に、横たわっている狡噛の頬に冷たく溶けていく。
———狡噛はゆっくりと、瞼を開けた。
視界には、少々ぼやけているが、右隣にこちらを見て立っている宜野座の姿があった。狡噛の姿は征陸に応急処置をしてもらった時のままだ。
「……気が付いたか」
パトカーの赤いランプと奥のビル明かりが眩しい。
宜野座の顔はよく見えない。
「……常守監視官……は……?」
声を振り絞って常守の所在を聞く。
「…………」
宜野座は、答えにくそうにプイと横を向いた。
ブランケットに包まって簡易椅子に座りながら下を向く常守。
隣には、征陸が立っている。
「……私がゆきを見殺しにした……私がゆきを見殺しにした……私がゆきを見殺しにした……」
常守は、そう何度もか細い声で呟く。
そんな彼女の目の前にドローンで運ばれてきた狡噛が現れた。横たわったままで移動してきた。
狡噛は、端末が付いている方の手で、ポンと常守の左側の上腕を叩いた。
「っ!」
我に返った常守は、思いがこみ上げてしまったのか、突然泣き出してしまった。
「……何があった?」
「…………あの男と……遭いました……」
「……あの男?」
狡噛は尋ねた。
「……あの男は……、槙島聖護は……」
その名前に狡噛の目が鋭くなる。
「ドミネーターで、裁けません……っ!!」
常守朱は、泣きながらもそう狡噛に叫んだのだった。