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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第10章 聖者の晩餐





 都内にも、静かに雪は降り出した。

 人々が行き交う道の脇で、屋根がある建物のそばで、彼女はその音を奏でていた。
 街のざわめきの音と合わさるようなヴァイオリンの音は、雪のしんとした音に吸い取られる。
 真壁亜希は、床にケースを置いて通り過ぎていく人の目を気にすることもなく、夢中になって弓を構えて四弦に指を滑らせた。

 亜希の視線の先に、自身と同じ髪色をした男、槙島聖護が奥の方から歩いてきた。
 彼、槙島は、彼女の目の前で立ち止まった。それを見て亜希は演奏を止める。左肩から楽器を離した彼女は槙島に喋りかけた。

「……随分と長いお遊びね……。隣にいた全身サイボーグ化の会長はどうしたのかしら?」
「彼の最期はとても輝いていた。惜しい人をなくしたよ」
 その言葉を聞きながら亜希は、楽器をケースへと片付ける。
「機械化した人間が死ぬのって、一体どういう感覚なのかしらね」
 作業をしながら彼女は喋る。
「……狡噛慎也執行官は、貴方が期待するような人間だったのかしら?」
 亜希の問いにああ、と答えた槙島。


 フッと笑った彼は、彼女と一緒に進めていた足を止めて、ゆっくりと上から舞い降りてくる雪の空を見上げたのだった。




 ———神の御子は、今宵も。


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