第10章 聖者の晩餐
「……っ!」
常守がドミネーターを彼に向けた。
この状況でドミネーターは、使い物にはならない。けれども常守はその行動を一途にする。
———もう、何回目だか分からない。
『犯罪係数0 執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
「やめてぇぇぇ!」
つまらなそうな顔をした槙島は、西洋剃刀を、横に引いた。
赤い、大きな血しぶきをあげて、彼女は倒れていく。
「いやああぁぁぁあああぁぁぁ!」
「……お嬢ちゃん!!!」
常守を追っていた征陸が、彼女の叫び声に反応して、声のする方向へと走っていく。
しかし、彼が駆けつける頃にはもう、時すでに遅し———。
ぽた、ぽた、と赤い液体が下へ下へと垂れていく。
カツ、カツ、と足音を立てて槙島聖護はその場を去っていく。
片手に手錠がかけられたままの彼女。
服にはこれでもかと言うくらいに血が飛び散っている。
常守は、足を開いたまま床にお尻を落として、目を大きく開けたまま動けないでいた。
脳内で先ほどの光景が何度もフラッシュバックする。
今は何も考えることができない。
鉄の冷たい感覚が、両足のふくらはぎから少し、分かるだけだ。