第10章 聖者の晩餐
『犯罪係数アンダー20 執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
「デカルトは、“決断ができない人間は、欲望が大きすぎるか、悟性が足りないのだ。”と言った」
腕を震わせて、下に銃口を向ける形になる常守。
「……どうした。ちゃんと構えないと、弾が外れるよ」
———さぁ、殺す気で狙え。
両手を広げて彼は言った。
常守は、右手だけ添えた猟銃の引き金を、目を瞑りながらその人差し指を引いたのであった。
破裂音のような銃声は、彼らがいる一帯を響かせて重く鳴った。
「……っ」
銃口から煙が出た猟銃を構えている常守が、再び目を開け目の前を見た。
そこには、煙に包まれつつも相変わらず槙島と怯える船原の姿があった。
その光景に、常守は両足を震わせて、力が抜けた右手から猟銃を床に落とした。ドッ、と重い音を立てて落ちた銃はもう、使い物にはならない。
「あっ……朱……」
船原のか細い声が聞こえた。
後ろに足が下がっていく常守。
「……残念だ。とても残念だよ、常守朱監視官」
槙島は、船原の髪の毛を下に引っ張って彼女の顔を上げた。
「……いやっ、助けて…………あかねぇ……っ」
涙を流しながらも必死に常守の助けを求める船原。
常守は、ぶるぶる体を震わせ目を見開きながら、両手でドミネーターを構える。
「君は僕を失望させた。だから、罰を与えなくてはならない」
「……やめて……お願い……っ」
「己の無力さを後悔し、絶望するがいい」
槙島は、西洋剃刀の切れ刃を、船原の喉に当てた。