第10章 聖者の晩餐
「君が言う、“複数の犯罪”とはどれのことだろう?」
槙島は「御堂将剛? それとも王陵璃華子?」と、今までの犯罪者の名を口にした。
「………やっぱり……」
ドミネーターを構えながら呟いた常守。そんな彼女に対しハッハッハッ、と、嘲笑うような声を響かせる槙島。
「……僕はね……、人は自らの意志に基づいて行動した時のみ、価値を持つと思っている。だから、様々な人間に、秘めたる意志を問い質し、その行いを観察してきた」
「……いい気にならないで! あなたは只の、犯罪者よ!!」
「……そもそも、何をもって犯罪と定義するんだ? 君が手にしたその銃……、ドミネーターを司るシビュラシステムが決めるのか?」
常守は、再びドミネーターを槙島に向けた。
『犯罪係数アンダー50 執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
先程よりも計測値は低くなっていた。
ドミネーターの引き金に、鍵がかかる。
「……サイマティックスキャンで読み取った生体力場を解析し、人の心の在り方を解き明かす……。科学の英知は遂に、魂の秘密を暴くに至り、この社会は激変した。だが、その判定には人の意志が介在しない。君たちは一体、何を基準に善と悪を選り分けているんだろうね?」
「……あなた、一体……」
ドミネーターを構える常守の瞳が大きく開く。
「僕は、“人の魂の輝き”が見たい。それが本当に尊いものだと確かめたい。だが、己の意志を問うこともせず、ただシビュラの神託のままに生きる人間たちに、果たして価値はあるんだろうか?」
と、船原の体に向けていた猟銃を手から滑り落とした槙島。銃は常守の足元で止まった。
「折角だ、君にも問うてみるとしよう」
刑事としての、判断と行動を。と喋った彼は、船原に繋いでいた手錠のもう片方を錆びた手摺にかけたのだった。
「なっ……何をするつもり!?」
「今からこの女、船原ゆきを殺してみせよう」
と、船原が着ていたモッズコートを半分脱がせた槙島。怯える船原の目尻には既に涙が溜まっている。
君の目の前で、と言う彼に常守は、再びドミネーターを向けた。
『犯罪係数48 執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
引き金が、再び施錠される。
両手でドミネーターを構える常守の手は、ブルブルと震えていた。