第10章 聖者の晩餐
常守朱は奥の、奥の道へと足を進めた。
錆びた鉄の手すりがかけられた通路には、これほどまでに飛び散った血のあとが残っていた。何重にも交差する道の下は暗闇だ。
カツ、カツ、と怯えながらも常守は、ドミネーターを構えて一歩、一歩、進んでいく。
「……っ!」
常守が上へと目を向けると、猟銃を片手に持った白髪の男に連れていかれる親友、船原ゆきの姿があった。
「止まりなさい!!」
力強く犯人へと叫ぶ常守。彼女の声に反応する船原。
白髪の男は、逃げる様子もなくその足を止めた。
「公安局です! 武器を捨てて投降しなさい!」
手帳を見せて命令した常守は、船原を欄干の前にやったその男にドミネーターを向けた。
『犯罪係数79 執行対象ではありません』
『トリガーをロックします』
「……!?」
指向性音声の数値に動揺を隠せない常守。
「あっ……朱……っ」
今にも泣き出しそうな声で自分の名を呼ぶ船原に、常守は「待っててゆき! 今助けるから!」と声を張った。
「………あぁ、君の顔は知っている。公安局の、常守朱監視官……だね」
と、白髪の男は思い出すように呟いた。
「……あなたがゆきを巻き込んだのね………よくも……っ」
憎しみの声を出す常守に、その男は名を告げた。
「———僕は、槙島聖護」
その名前に常守は「なっ、……槙島……!?」と反応を示し、その男、槙島聖護は「成る程、そこで驚くのか。流石公安局だ」と嘆称した。
「尻尾ぐらいは掴まれていたという訳か」
「……あなたには、複数の犯罪について、重大な嫌疑が掛かっています。市民憲章に基づいて、同行を要請します!」
「話があるならこの場で済まそう。お互い、多忙な身の上だろう?」
「……逃げられると思ってるの?」
「君は、応援が来るまでの時間稼ぎの為にも、ここで、僕との会話を弾ませるべきじゃないかね? 熟練の刑事なら、そう判断するはずだが……」
「………っ」