第10章 聖者の晩餐
泉宮寺は、血の痕を追いかけて行く。登った先には、ドラム缶が並んである。少しだけ覗かせる影を確認して、ドラム缶の先へと歩いて、引き金に手を添え、思い切り銃口を向けた。
そこには、モッズコートを着た船原がしゃがんで身を潜めていた。
「…………ッ!?」
予想外の出来事に驚く泉宮寺。
動作が止まった彼の脇から機械音が響く。
『犯罪係数328 執行対象です』
顔を向けた先には、ドラム缶に入りながらドミネーターを構える狡噛の姿が———。
次の瞬間、泉宮寺は陶酔の笑顔を浮かべながら船原の前方へと倒れていった。
「………ッ」
怖がる船原。
粉々になった泉宮寺の体———。その体の一部は、硬い音を立てて地面に散らばる。動かない泉宮寺を確認した船原は「……すごい」と感嘆の声をもらした。
「やったよ……! あたしたち勝ったよ!」
狡噛が、重い体をあげてドラム缶から出て、船原の方へと足を進める。その最中にドミネーターが手から滑り、それを拾おうとするが、鉛玉をくらった体はなかなか思うように動いてくれない。
船原が先に、狡噛の元へとたどり着いてドミネーターに手を伸ばす彼にぎゅっと両手で包み込んだ。
「……すまん、無茶をさせたな………ここを出たら……すぐにセラピーを受けろ……。あんたは……見るべきじゃないモノを見過ぎちまってる………」
「いいよ……狡噛さん、素敵だったもん……。あたしも、潜在犯になっちゃいたいぐらいだよ……?」
「…………馬鹿を………」
狡噛の視界は急にぼやける。くらくらと目眩もしてきた。自分の手を握る船原が視界には見えるが、御構い無しに自分の意識は無くなっていく———。
ドサッ、と重い音を立てて自分の体が地面に倒れていくのを感じた。
カチャン、と船原の両手に手錠がかけられる———。
「やめて! 離してっ!」
狡噛は、船原の抗う声で再び目を覚ます。
「……君と語り明かしたいのは山々だが……、今は具合が悪そうだね」
いずれまた会おう、と泉宮寺の猟銃を片手に船原を連れて行く男の姿が狡噛の視界には写った。
「やめて……っ、狡噛さん……!」
叫ぶ船原。
狡噛は目の前にあるドミネーターに手を伸ばそうとするが———、
そのまま倒れ、再び目を閉じてしまった。