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【PSYCHO-PASS】名前のない旋律

第10章 聖者の晩餐




「……昔は発展途上国のインフラ設備に係る工事が多くてね、……危険な現場ほど金になった」
 泉宮寺は帽子を脱いで、装着していた双眼鏡を外した。
「紛争は突発的で、状況予測と危機管理には限界があった。現地でゲリラの襲撃に遭ったことがある」
 もう7〜80年は前かな。と、銃の元折れ部分からシェルを取り出して新しい弾を装填する。

「あの時も、隣にいた同僚が撃たれたんだ………それまで泣いたり叫んだりしていた友人が、次の瞬間には肉の塊になっていた。私は、飛び散った血飛沫を頭から浴びてね。彼の臭いが私の全身にべっとりとこびりついて………」
『…………』
「勘違いしないで欲しいが、これは“いい思い出”の話だ。あの時ほど命を……生きているという実感を、痛烈に感じたことはない」
 カチャン、と元折れ部分を閉じる泉宮寺。
「それを今、私は再び味わっている。この機械仕掛けの心臓に、熱い血の滾りが蘇っている」
 赤い帽子を手にしてそれを再びかぶる。
「ここで“逃げろ”だって? それは残酷というものだよ」

『………ここから先はゲームでは済みませんよ』
「その通りだ。これまで狩人(ハンター)として多くの獲物を仕留めてきた。しかし今は決闘者(デュエリスト)として、あの男と対峙したい」
 泉宮寺は立ち上がりながら言った。

『槙島くん。君とてまさか、ここで私が尻尾を巻く様を見たくて、妙な小細工を労したわけでもあるまい?』
「……仰せの通りです」

「あなたの命の輝き。最後まで見届けさせてもらいます」








『ところで真壁くん、彼女はどうしたのかね?』
「……残念ながら、外へ出て行ったみたいです。……愛想を尽かされたんでしょうかね……」
『彼女にも、よろしく伝えといてくれ』
「……わかりました。……ですが、伝えたところで煙たそうな顔をされるだけかもしれませんよ」
『はっはっ、……君の家族は、挑戦しがいのある相手だ……』
「…………」

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