第9章 狩りに最適な日
「お心遣い、感謝するわ」
「それはどうも。あぁ、それとお嬢、楽器の足元に置いてある紙袋に着替えが入ってますんで、移動中に着替えちゃってください」
と、言われた真壁はその茶色い紙袋に目を移す。
「まぁーしょーちゃんったら、随分と自分勝手なのね。しかも車内で着替えろですって?」
若干強めな口調で話す彼女に対し「安心してください、ちゃんと外からは見えないんで」と言うグソン。そんな彼に「あなたも見ないでちょーだい!」と言葉を投げた真壁だった。
———12月25日の真夜中に、グソンと亜希を乗せた車は走って行く。
「それではまた、気をつけてくださいね」
生憎、俺はちょっと別の仕事がありましてね、とグソンはそう言いながら車と共に後にした。
到着した頃には、日が昇ってきて少々眩しかったのか、サングラスをかけながら彼はその場所を去っていった(だがしかし、彼の目は義眼なので格好だけになるのだが)。
彼女、真壁亜希は廃棄区画内の地下鉄の入り口の目の前に降ろされた。楽器ケースを片手に持ちながら、白いワンピースに黒い厚めののカーディガンを羽織った亜希はブーツをコツコツと音を立てて階段の方へ進んでいく。
「やあ亜希、よく来たね」
階段を降りた先には、古びたコンクリートの壁を背に、亜希の方を向いて本を読んでいた槙島の姿があった。どうやらその素ぶりからして、自分が来るのを待っていたらしい。
パタン、としおりもつけずに本を閉じた彼は、彼女の方へと足を進めた。