第6章 傷口に砂糖を(伊黒小芭内)*
『先輩は一度も私の名前を
呼んだことない。
笑顔を見せてくれたこともない。
…甘露寺さんのことは呼ぶくせに。
笑顔も見せてるくせに…』
「………」
『…好きだとも言ってくれない。
付き合ってからもずっと…
ずっと私の一方通行だった…』
「………」
『もう、疲れました…
いろいろ考えすぎて、自分ばかり好きで…
だから…別れましょう。
終わりにしたいんです。
先輩への気持ちも全部。』
そのとき飛鳥のスマホが鳴る。
『…ちょっとすみません…』
そう言い飛鳥は廊下に出る。
「あ、もしもし飛鳥。
悪いな、今取り込み中だったか?」
『…義…勇っ……』
電話の相手は義勇だった。
彼のいつもと変わらない、優しい声を聞いた飛鳥は涙が止まらなくなった。
「おい、どうした……」
手元にあったはずのスマホが消えた。
「…冨岡。今大事な話しをしてるんだ。
悪いが、あとにしてくれ。」
そう言ってスマホの電源を切る。
『…先輩!何するんですか!
返してください…』
「今大事な話しをしているのに
なに他の男と話してるんだ?」
飛鳥はハッとした。
小芭内がものすごく怒っている。
このままここにいたらヤバイ…普段鈍感な飛鳥だがこのときは強くそう感じた。
『すみません…話しはもう終わりました…
私帰ります…!』
そう言い玄関に向かおうとしたとき手首に強い痛みが。
小芭内が飛鳥の手首を掴んでいた。
そしてそのまま寝室に連れて行かれベッドに倒される。
目の前には小芭内の顔。
ほんの数秒のできごとだった。