第9章 日常を編む
髪を結ってほしい、と言われたのは初めてだった。ジャミルの背中へまわって腰掛ける。
長くて癖の無い黒髪。櫛通りが良い。うーん、私よりもちゃんと手入れしてそう。
私は男の髪型だし、と言い訳してかなり適当だったから。
あみあみあみ
編むの長いな。彼のいつもの髪型はなかなか難しいぞ。
「全部纏めてお団子にしてもいい?」
「やめてくれ」
「ジャミルは、よく毎朝セットできるわね」
「毎日やっているからな。習慣だ。……まあ、魔法でやってるんだがな」
「え゛……私は魔法ではできないから、このまま手で結うけど……」
「ああ、アーヤの手で髪を掬われるのが気持ちいい」
「っ…………そ、そう?良かったわ。……それにしても、あなた、本当に器用ね。下手に器用なんだから」
「なんだそれ。誉めてないのか?」
半々だ。すごく器用だけど、器用だったからこそオーバーブロットした気がする。オーバーブロットの話はしない方がいいかな?
「……そういえばラギー君が」
「誤魔化すな」
「じゃあ、今のは無かったことに」
「逃げるな」
「あっ……」
ジャミルが振り返って、手から髪が流れ落ちた。せっかくここまでやったのに勿体無い、と思って髪を追った手を掴まれる。
「何を言いたいのか、だいたいわかるが……。アーヤは俺の恋人だろう。遠慮しなくていいんだ。全部その口から聞きたい」
「それが、黒歴史でも?」
「そうだけど、黒歴史って言うな」
言えだ言うなだ、整合性の無さが年相応に思えて、可笑しくて笑ったら小突かれた。