第8章 追伸蛇足 (第一部終)
自分を守るための壁は壊されて、心の奥にある、むき出しの素直な心が言葉に出た。
気持ちが昂りグズグズ泣いてる私を、オアシスに着いてもジャミルは落ち着くまでずっと抱きしめてくれた。
「ジャミル、ありがとう」
「ん……」
そっと体を離して見つめ合う。
「やっぱりさっきの無し、は聞かないからな」
「うっ……」
ジャミルがジト目になった。
「仕事は今までと変わらない。ナイトレイブンカレッジにいる間は本分は学生だから主家の影響を受けにくい。今までより一緒にいる時間を増やせばいい」
それに……、と言葉を一度区切った彼は誇らしげに
「ずっと好きだった人が、俺を好きだと言ったんだ。この先に多少のリスクがあったとしても、押し通したいものがある」
言いきった。
思わず笑みがこぼれる。こんなに堂々と、あの何でもできる同僚がそう言うのだ。
「俺を信じろ」
うん?
「あ、それはアウト。あんな手酷い裏切りした人が、その言葉を使っちゃダメ」
「くっ!?」
「……でもそうね。あなたの言葉通りのことが、できるんじゃないか、って思えたわ。そう思った私自身を、私が信じる。だから、ジャミルとこれからお付き合いできたら嬉しい、です。好き……だから」
「っっっっ(それは俺から言いたかったのに……)俺もだ……」
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
私たちから少し離れたところで見守っていた魔法の絨毯が嬉しそうに自身を揺らしている。
それを見たジャミルが、そういえば……と顔を隠して小さな声で呟く。
「魔法の絨毯で告白なんて、今更ながら恥ずかしい」
なんて言うものだから、思わず吹き出して笑ってしまった。
「プッ……アッハハハハハハ!!」
熱砂の国の昔話。昔はお姫様と結婚できるのは王族だけだったのだが、初めて平民の男がお姫様と結婚する話で有名なエピソードがあるのだ。
空飛ぶ魔法の絨毯で、歌を唄いながらお姫様に愛を告げた。という超ロマンチックなエピソードが。
「フフ、なんか可笑しいわね。まあ、実際のところ、お相手はお姫様じゃないし、歌なんか唄えずに泣いていただけだったわね」
笑いが止まらなくて蹲ってヒイヒイ言ってる私を、ジャミルは腕を取って立ち上がらせて言った。
「それでも俺が欲しかったのはアーヤだからな」
そういうジャミルは、私には王子様に見えるのよ。言わないけど。