第7章 そこにいるから道を作れる
ずっと近くにいたから、君の考えることはよくわかる。
だから
距離は今詰める。
カリムに、アーヤと2人で話す時間がほしいと、それとなく伝えたのは俺だった。アーヤが逃げるのはわかっていたから。ずっと近くにいたもの同士、お互いの考えがわからない程鈍くはない。だから主人であるカリムから言ってもらうのが確実だった。
ーーーまさか魔法の絨毯を使うとは思わなかったが。
予想斜め上の対応ではあったが、このチャンスを逃す気はない。
「アーヤ」
「や、待って。その……」
アーヤの頬に両手を添えて目を合わせる。出すのは「蛇のいざない(スネーク・ウィスパー)」の魔力ではない。何者も欺かない、一番素直な心。きっと今しか使えない魔法に匹敵する力。
「待てない。お願いだ。逃げずに聞いてほしい」
この学園生活を変わらない形で延長できるようになった一因はアーヤだ。嬉しかった。だからこれまでの何かを壊してでも、今、この先に進みたい。
「っ……」
「あの日、遠慮しないと決めてから、アーヤとの関係も遠慮したくないと思った」
余計なことは考えるな。
俺のことだけ考えて、出した答えしか聞きたくない。
「好きだ」
両手を伸ばして抱きしめる。
「一緒にいるのは、アーヤがいい」
催眠魔法じゃないのはわかる。なのに、動けなくて、目を反らせなくて、ジャミルの言葉が、言葉以上に物言う表情が、心の奥に届いて降り積もる。
抱きしめる腕は、シュルリと巻き付くように触れて、もう逃げられない。
「……見るだけじゃなくて、いいの?」
「ああ」
「触れてもいいの?」
「ああ」
「一緒に…………っっ!!」
目の前がぼやけて溢れた涙が頬を伝う。眉が寄って顔はぐちゃぐちゃだけど、今ただ言いたいことがある。
「好き……!好きよ。ずっとずっと前から好きだった!」
頬をジャミルの指が撫でる。優しくて温かくて境界が曖昧になるような錯覚さえ覚えた。
手を重ねて、額を触れ合わせて、見つめて、そして唇が重なる。
ジャミルの顔がほころび、目蓋を閉じた。
「ああ、ずっと聞きたかった」