第6章 その地図を破るもの
「ねえ、魔法の絨毯ってば。戻るわよ。カリム君が1人じゃ心配でしょう?」
♪♪♪
完全に無視された。むしろノリノリでオアシスに向かっているように見える。
「まあ、大丈夫だ。さっきカリムの安全確認は済ましてあるし、他の寮生もいる」
さっきまで一緒にあたふたしていたはずのジャミルは、落ち着いていた。
慌てているのは私だけなのか。少し冷静になろうと空を見上げると
「うわあ、綺麗」
周りに建物の無い絨毯から見る夜空は、宝石を散りばめたように美しかった。
思わず手を伸ばして触ってみたい。と同時に吸い込まれそうで、怖い。
「アーヤ」
ハッと横を見ると、ジャミルがこちらを見ていた。左手を取られる。心なしか、優しい表情に少しばかりの固さ。
怖い、と思った。
直感だ。言うなれば、女の勘。
この先、このまま進むと、もしかしたら、小さい頃から憧れていた言葉をくれるんじゃないか、なんて。きっとそれは、キラキラして綺麗で、でもすぐに壊れてしまいそう。
ジャミルが好きだ。ずっと一緒にいたい。あなた以上に求める人なんていない。ジャミルも、カリムを除いて、私ほど距離が近い人はいないって思える自信もある。
でも私はアジーム家に使われるもので、家柄もバイパー家よりずっと低い。小さいころに一緒の時間を過ごしたから、仲が良いってだけで。それだけで、それだけを土台に、この先大人になっても彼を乞い求めていいと思えない。
だから、同僚としてカリムに仕えられるのが、これ以上無い幸せだと思ってた。それが、この恋の最上位だと。それ以上は、壊れてしまいそうだから。
それに、最近まであなたもずっと距離を保っていたでしょう?それが得策だと思っていたんでしょう?
なんで。
なんで、視線で、その手で、その距離を詰めているの。