第29章 それが選んだ答え(extra2終)
「カリムには最近特別気に入っている女性がいるようで……」
問題の使用人には恋人の存在をそれとなく世間話して伝えた。
そして敢えてカリムの会話を聞かせる。
「久しぶりに……あの子に会えるな、ジャミル。明日が楽しみだ!」
これで使用人は動く。
主に情報を流すだろう。そしてカリムの恋人(仮)を確認次第、何らかのタイミングで接触してくるはず。
接触の事実さえあれば、あとはアジームでどうとでもできる。
準備はできた。
バイパーとして、よく動けている自信があった。自身の能力を思う存分発揮できるのは誇らしさすら感じる。
けれど、彼女を利用した策を即座に練って躊躇なく実行する自分は
最低だな
アーヤがこの件の全容を知ることはない。必ず守る。だから……
できれば君のいい恋人でいたい。
言い訳して、感情を抑えつけないとどうにかなりそうだ。だいぶ堪えているらしかった。
アーヤを迎えに行く日。
想定外だったのは敵が思った以上に過激で性急だったこと。カリムの恋人(仮)を確認した途端に、目の前で拐ってしまったことだった。
何を思ったか知らないが、使用人を送り込むのにはずいぶん時間をかけたくせに、いきなり性急すぎる!
ああ、コロス。
カリムが、敵の相手はオレがすると強く主張してきた。俺が激情を抑えられないことに気付いたらしい。あれの鈍感さもマシになったものだ。
カリムとタイミングを合わせて倉庫の扉を開けば、アーヤが見えた。
彼女の視界に入るのは俺だけでいい。
引き寄せ魔法をかける。
「アーヤ、こっちへおいで」
彼女の耳に、俺の声だけが入ればいい。
「つかまえた」
やっと触れられた。
あとはアジーム家に連絡して、ムルシド様が手配していた者たちが、誘拐犯と使用人にしかるべき対処をする。
今回のことは、他の使用人には周知しないことになっていたので、アーヤには“問題無い”と伝えて終わる。
終わりのはずだった。それで自分の中でぐちゃぐちゃに暴れる感情を欺き抑え込めるはずだったのに。あんの執事!!!
「なあ、」
声を出せば、思った以上に弱々しかった。
「酷い恋人がいたもんだよな」
自嘲の笑みが浮かぶ。
「最低だろ……?」
胸が苦しい。
「なあ、……っ」
もうどうにでもなってしまえ
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