第29章 それが選んだ答え(extra2終)
“問題無い”
アジーム家の使用人にとってこの言葉は、“これ以上追求するな”である。
ここで追求を止めない使用人は、アジーム家にはいられない。
アジーム家には色々な諸事情が日常茶飯事。
この言葉があるから、線引きができる。この言葉を言われるうちは、安全が保証されてる。
つまり内部事情を知る人が、平の使用人に対し「これ以上は、命取りになるよ」と言っているのである。
基本的に、私はその線の外にいて、ジャミルは内にいる。
「……」
「……」
沈黙が続く。出方をお互い探っているのがわかる。
ふぅ、と息を吐いて吸い直す。
「髪飾り」
ごくり、とジャミルの喉が動く。
「救出の早さ」
ジャミルの声が少し掠れて響く。
「……続きを」
「あの髪飾り、贈られたタイミングに違和感があったの。あと数日すれば直接会うのだから、渡すのはそのときでもいい。でも送られてきた。会うときに付けていてほしいのかな?って、そう思ったから私は昨日付けたけれど」
それも織り込み済みだったのでしょう?
「あのデザイン、どちらかと言うとカリムくんの好みだったはず。あれを私が付けることで、よりカリムくんの恋人らしく見えるようにした」
誘拐犯がカリムの好みを知っていれば、私が恋人だという説得力が増す。知らなくても、カリムは素直で率直な物言いをする人だから、私の髪飾りを誉める可能性が高い。そして髪飾りに触れたりすれば、遠目でも恋人らしく見える。
「私が誘拐されて、助けられるまでの時間はせいぜい2時間ほどだった。2人が直接乗り込んできたあたり、警察には連絡していない。警察関係のものもビル付近で見なかったしね。その後、ジャミルはアジーム家に連絡を入れていたけど、その時初めて誘拐について説明しているような口ぶりだった」
口の中が乾く。お茶を飲んでさらに続ける。
「アジーム家の助力無しに2時間で私を救出した。初めから髪飾りにはGPS機能を付けていたと考えれば納得できる。だから……」
「アーヤ、ムルシド様は、確かに“問題無い”の先を聞いていいと言ったんだな?」
「ええ。ムルシド様に電話する?」
「いや、いい」
ジャミルが、ハァと息を吐き出す。
「その通りだ」
→