第28章 それは私の選択肢
「いいんだ。アーヤが無事だったんだから」
被せるようなジャミルの声に苦笑する。
「……ええ、いいんです。2人とも、助けてくれてありがとうございました」
「おう!……そうだ。ばっちりだったな!オレが窓を割るのとジャミルがドアを開けるタイミング。あと『枯れない恵み』と、アーヤを部屋の外に出してドアを閉めるタイミング!」
「当たり前だ。誰が合わせてると思ってる。それこそお前は、あの後問題なかったか?魔法士もいただろう?」
「打ち合わせ通りやったぜ。抵抗しそうなヤツには風の魔法で波を起こして手を止めてもらったし、アーヤのマジカルペンとスマホは返してもらったしな!……ああ、スマホは水没したんだった。悪い」
「そんなに大事なデータも入れてないから平気ですよ」
「カリム、怪我はないんだな?」
「もちろん!数分足止めして、すぐ外に出た!それだけだ。怪我はしてない」
大丈夫とは言ったものの疲れていたので、アジームの屋敷に着いたら、今日は挨拶だけしてすぐ実家に戻りたいと思っていた。
なのに。
新人の使用人が1人、今日、急に辞めたらしい。お陰で帰って早々、仕事が沢山待っていた。
まったく、もう少し考えてから応募するか、前もって辞職を伝えるかしてちょうだいよ!
一段落して、今は3人カリムの部屋にいる。
「アーヤー、本当に無理してないか?怖かったら今日一緒に寝てもいいんだぜ?な!ジャミ……」
「あァ?」
地の底から響くような声だった。
「ひっ……ジャミル……!!違う違う!そういう意味じゃないんだ!」
「じゃあなんだっていうんだ」
「その、弟とか妹とかみたいな……」
「アーヤをアジームの一員にするつもりか」
「待って!違う!誤解!」
「……あの、すみません、両親も待ってますし、ここで失礼しますね。ありがとうございます。今は本当に大丈夫ですし、何かあれば必ず相談します。ムルシド様に挨拶がまだなので、最後に行ってきます」
カリムの部屋を出て、疲れでぼーっとする頭を抱えつつ執事の待つ部屋へ向かう。
カリムはとても優しい。自分が誘拐される以上に、私を気にして心配してくれる。こういうときのカリムは
まるで、お兄ちゃんみたいなのよね。
彼もまた、自分を安心させてくれる存在なのだと実感する。心が温かくなった。