第28章 それは私の選択肢
意識が浮上する。
自分の状態を確認。両手、両足は縛られて椅子か何かに座らされているようだ。次にそっと目を開けてまわりを確認する。
目隠しはされていなかった。高い天井、上部に窓、灰色の壁。倉庫のようだ。部屋には顔を隠した男が少なくとも5人はいる。
私のマジカルペンはどこだろう。ポケットに入れていたはずだが、おそらく、スマホと一緒に回収されているはず。
髪飾りはまだ私の髪に付いているのだろうか……。まだ感覚が鈍くてよくわからない。
「お嬢ちゃん、目が覚めたのか」
男が1人近づいてくる。
「手荒に拐って悪かったな。すぐに解放してやるから」
拐われたのか。なんてこった。
床に目線を落とし、考える。
待ち合わせ場所でジャミルとカリムを待っていた。2人が見えて、さあ声をかけようとしたところで何かが背中に当たる感覚と同時に意識が薄れた。
背中に当たったのは転移の魔法道具だろうか。
私は誘拐に対応できるユニーク魔法を持つ故に、カリムの従者になったのに。カリムじゃなくて私が誘拐されてどうする。
情けなさで体が震える。
それにしても、誘拐って久しぶりだな。
私が10歳でカリムの従者になってから、カリムは何度か誘拐された。
でもその前、さらに幼い頃の方が、誘拐はもっと多かった。
小さいほど、抵抗する力は弱く、運びやすい。
カリムより私の方が小柄だから誘拐しやすいってのはわかる。……いや待て。初めて誘拐されて、大分頭が混乱していたらしい。
そもそもだ。
なぜ私を誘拐した?
「そんなに怖がらないでくれ。こちらの要求を1つ呑んでくれればいい。それだけだ。解放して、今後決して君には関わらない」
顔を上げると用紙が差し出される。
「これは……」
魔法契約書だ。
正式に魔法拘束力の発生する本物だ。
私の実習先は、国立魔法契約研究所。名前からわかるとおり、私はここで魔法契約に関する研究の手伝いをさせてもらっている。
実際のところ私の実習の目的は、この研究所で魔法契約全般についての専門的知識を身に付け、自分のユニーク魔法に活かそうとしているところにある。
本当は魔法ユニバーシティなどで学ぶ内容なのだが、私の家はそんなお金はないし、奨学金をもらって進学するのも現実的ではない。だから、ナイトレイブンカレッジにいる間に、学べるところまで学びたかったのだ。
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