第28章 それは私の選択肢
噴水の前に着き、時間を確認すると待ち合わせ15分前だった。
「2人はまだね。……良かった」
ユニーク魔法で2人の様子を観る。もうこの町にはいるようだ。絨毯から降りて歩いている。
早く2人に会いたい。町を案内して、お互いの近況報告もして、それから……。
緩む頬に手を添える。
楽しみで胸が一杯で、すごくすごく浮かれていた。
だから油断したと言われれば、何も言い返せない。
「「アーヤ!!!」」
意識が遠くなる中、せっかく来てくれたジャミルとカリムには悪いことをしたと思った。
「なんだ!?アーヤが消えた?……転移魔法か?」
拐われたのだとすぐに思ったのは、オレ自身が今までに両手の指では数えられないほど誘拐された経験があるからだ。
「ああ……この魔力残滓はおそらく魔法道具だ」
ジャミルが冷静なのは、やはり誘拐に対応してきた経験が何度もあるからだ。
ホリデーで、少し遅れて戻ってくるアーヤを迎えにいこうと言い出したのはオレだった。嬉しいことに許可も下りた。
彼女が暮らす町を見れるし、何より、ジャミルはアーヤに早く会いたいだろう。
でも、オレを置いて迎えにいくとは言い出さない。
今は家にいるんだから、少し離れたって大丈夫なのにな。
もしかして照れてるのか?
待ち合わせ場所の噴水が見える。すぐにアーヤがわかった。
女の子らしい綺麗な服を着て、少し伸びた髪を結わいて髪飾りを付けている。
とってもかわいいな!でも、最初に声をかけるのはジャミルがいいか!
そう思い、振るために上げた手はそのままに、開きかけた口を閉じてジャミルの方を向こうとした、そのとき。
アーヤが光りに包まれる。
「「アーヤ!!!」」
伸ばした手が届く一歩手前、光と共に彼女の姿が消えたのだった。
一瞬のことで、まわりの観光客は気付いていないようだった。魔力残滓から後を追えるか、警察、それともアジーム家へ連絡するか。
「なあ、これ……っ……」
ギッヂヂヂヂギイィィィイ!!
隣から聞こえた音に閉口する。
こんなに怖い歯ぎしりの音は初めてだ。
まだアーヤの居場所も、誘拐の目的も、安否すらわからないのに。
思わず、どうしたら誘拐犯の命は助かるだろうか、と考えてしまった。
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