第27章 これは実習希望調査票
「あーダメだ。何も思いつかねぇ」
ペンを転がして、そのまま突っ伏す。
「『自分の能力をどう活かすか考えて、研修先を決めるように』って言われてもね……カリムくんや、レオナ先輩みたいにわかりやすければ簡単なのに」
「なんでレオナさん?」
「何でも砂にできるなら、ビルの解体とか重宝されそう」
「まさかの土木!?……あんたが砂にされるっスよ」
オレは上体を勢いよく持ち上げアーヤを見た。
アーヤはペンをくるくる回しながらブツブツ呟いている。「その砂をカリムくんの水でこねたら、いい粘土ができるかも」……あ、コイツ思考放棄したな。
「アーヤくんが何をしたいか、でいいんじゃないっスか?何かしたいことがあるんでしょ?」
アーヤが目を見開いてこっちを見る。
「……なんで、」
「なんでわかったかって?顔に出てるんスよ。君、わかりやいから」
普段クラスでは「恥ずかしがり屋で内気な男」を演じているアーヤだ。そこは問題ない。オレだってアーヤが本当は全然性格の違う女の子だったなんて、2年近く気付かなかった。
だけど親しくなると表情豊かでわかりやすい子だ。
アーヤにとって自分がそういう、いわゆる気の置けない人になれていることを、少し照れ臭さを感じつつも自覚していた。
だからだろうか。少し背中を押してやりたくなった。
「したいことがあるーーその意思だって、自分の能力の1つでしょ」
アーヤの瞳がキラリと光る。
「なんに遠慮してるのかとか、迷ってるのかとか、そういうのは知らないッス。けど君の目の前に望むものがあるなら、取りに行けばいいでしょ。チャンスを逃したら、次はいつ来るかわからない」
むしろ一生来ない、とすら思う。
スラム育ちのオレは、まわりの恵まれた坊っちゃんたちより、ずっとチャンスが少なかった。
わかっていて逃すなんて絶対にしない。
本当は君もそうでしょ?
「っ……ありがとう!」
「シシシッ。貸し1つっスよー」
アーヤは紙に勢いよくペンを滑らせる。少しして書き終わり、手を止めてこちらを見た。
「ラギーは面倒見がいいね。先生とか向いてそう」
「はっ。いきなりなんなんスか。そんなしちめんどくさい仕事なんてしないっス。俺は高給取りになって、ガッポガッポ稼ぐんスよ」
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