第27章 これは実習希望調査票
~3年生~
「そんなことがあったんスね」
「せっかくのハロウィーンの狼男仮装、すっごく楽しみだったのに結局1度も着れなかったわ。仮装したら、認識阻害魔法の効果が薄くなるかもしれないって、ジャミルは全く譲らなかったのよ!酷いと思わない?ラギー」
「言葉が女の子になってるッスよ、アーヤ“ちゃん”」
「ああ、いけない」
そういう「抜け」が、ジャミルくんを心配させてるんだろうなあ。オレはこっそりため息をついた。
認識阻害魔法で、ケモ耳の影響やら外部の人間の感覚やら云々……とアーヤが話を続けているが、その魔法の効果の程は多分本質とは関係ないだろう。
スカラビアの仮装を思い出す。
……「開いた胸もと」。これが答えだろう。
ほとんどの生徒には男に見えているが、自分とジャミル、カリム、それから当時は学園内にいたレオナには間違いなく女に見える。
彼女があの仮装を着たら、けっこう際ど……
はあ。ジャミルくん、見せたくなかったんスねえ。
……要らぬ惚気を被弾した気がする。
「それで、腹いせにジャミルくんの暴走は止めずに、虫だけ駆除していた……と。まあ虫を駆除するだけ優しいッスね」
「ジャミルは虫が大嫌いだからね。いつも自分が何とかしてきたから、習慣というか…癖というか。まあ暴走してるジャミルはお腹がよじれるほど面白かったから、怒りがどっかにいっちゃった」
ナイトレイブンカレッジ3年生になってしばらく経つ。
4年になると学外実習が始まる。レオナはまさにその学外実習で学園内にはいないものの、昨年までの癖で植物園に来ていたオレとアーヤは、来年の実習先を決めるための実習希望調査票とにらめっこしていた。
だが、考えているうちに飽きて雑談にふけっていた。
アーヤとは、今年もクラスメイトだ。彼女が女性だと知ったのは2年生後半のころだったか。レオナの近くにいたので、違和感を覚えてからは比較的すぐに気がついた。
一時期でもレオナの世話を一緒にした仲だから、というのもあるし、意外と感覚が庶民的だったこともあって、それなりに話が合う。
アジーム家に長く仕えているからお上品な感じはするが、なんでも、実家は貧乏らしい。
ウチほどではないだろうが。
アーヤに適当に相づちを打ち、手元の紙に目を移した。
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