第25章 祝福をきみへ(extra1終)
せっかくの旅だ。連絡も最低限の定期連絡のみにしていた。どの国をまわったのか、何をしていたのか。ラギーから写真が送られてきて、初めて夕焼けの草原にいるのを知った。
今日は9月12日。ジャミルが帰ってくる日。それから、彼の誕生日だ。
門に現れた、ひと月ぶりのジャミルに、カリムが駆け出した。私も追いかける。
「お誕生日おめでとう!ジャミル!」
「おかえりなさい!ジャミル!」
「そろってないぞ」
カリムと目を合わせて、もう一度息をそろえる。
「おかえり!ジャミル!」
「お誕生日おめでとう!ジャミル!」
揃わなかった。戻って早々、呆れ顔のジャミルの前で、カリムと笑いあう。
「そんなんで、この1ヶ月大丈夫だったのか?」
「大丈夫だ」
「大丈夫よ」
「……そこは揃うのか」
「ジャミルも、大丈夫だと思ったから、当初の帰宅予定日通り、しかも夕方に帰ってきたのでしょう?」
「……」
わかりやすい無言は肯定だった。
ジャミルは帰って早々忙しかった。各方面への挨拶に、カリムが用意した誕生日&おかえりの宴(小さめ)、そしてやっと自宅へ戻っていった。
私も準備に片付け、更に通常の仕事をこなしせわしなかった。
「ふう。疲れた」
だいぶ遅い時間だ。私は廊下に誰もいないのを確認してひと息ついた。
「ジャミル、今ごろ家族にいろんな話を聞かせてるのかしら」
「アーヤ」
「うわあ!」
目の前にいたのは、思い浮かべていたジャミルその人だった。どうして?家に帰ったんじゃ……
「予定していた明日の休みは返上した。明日から、通常通りに戻る」
「え、え?なんで?」
「特に休む必要性を感じない。1ヶ月ずっと休んでいたからな。今日、アーヤはここに泊まるだろう?一緒に泊まらせてくれ」
「でも、ずっと旅してたから、疲れがあるでしょう?それに、久しぶりの家族は……?」
「さっきまで家でずっと話してた。両親も妹も明日は休みじゃない。もう寝たさ」
多分、間違ったことは言っていないけれど、違和感があった。何か大事なところが隠されているような……。
すっ、とジャミルの手のひらが私の頬に添えられ、親指が目元を撫でる。
「ジャミル?」
「いや……」
そこで口ごもったジャミルを見て、唐突に答えにたどり着いた。そうだ、私のためだ。
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