第25章 祝福をきみへ(extra1終)
私のためだ。
「私、大丈夫よ。元気なの。あと1日くらい、なんてことないわ!」
ジャミルのいないひと月は、確かにいつも以上に気を張るし、慣れないこともあったしで、疲れていた。目元にクマができるくらいには。化粧で隠していたが、彼にはバレてしまったようだ。
その優しさは嬉しいけれど、でも私だって彼に休んでほしいのだ。
「旅の間、俺には『密かな夢』を使ってないと言ってただろう。あとで俺の口から話を聞くのが楽しみだからと言っていたが……疲れてそんな余裕がなかったからなんじゃないか?」
「……どちらも本当だけど。私、大丈夫だもの」
こうなった私は、頑固だ。簡単には折れないと知っているジャミルは困ったような顔をして私を覗き込んた。目が合う。
「瞳に映るはお前の主……」
「瞳を閉じてもそこにいて」
「おい」
「それは、こっちのセリフ」
説得を諦めて『蛇のいざない』を使うとは何事か。こちらも抵抗するしかないだろう。
『密かな夢』をほとんど同時に発動すれば、催眠にかからずにすむことは、学園在籍時にわかったことだった。
ジャミルは呆れて、ふう、とため息をつき肩をすくめて言った。
「全く、君の瞳は信用ならないな。こちらを向いていても、こちらを見ていないかもしれないなんて」
「あなたの瞳は信用できないわ。それで何人を催眠にかけるのやら……でも」
ジャミルの目を真っ直ぐ見る。
「私はジャミルの目を見るわ。カリムくんもよ」
「…………知ってる」
腕を引かれて抱きしめられた。
「なあアーヤ、心配したのもあるが、ただ早く2人で会いたかったんだ。触れたかったし、話したいことも沢山ある」
ーーー本当だ。だから、俺が言った通りにさせてくれないか。
そんなことを言われたら、ダメだなんて言えなくなってしまう。
コクリと頷いた私を見てジャミルは表情を緩めた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
抱き合ったまま、見つめあう。
「何から話せばいいのか。聞いてほしい話が沢山あるんだ」
「聞かせて。全部、聞きたい」
月明かりに照らされて、ジャミルの瞳がキラリと光る。
その綺麗な瞳に、何を映してきたのか、知りたい。
そして、どうかこの1年、その瞳が曇ることがありませんように。
そう願って、背伸びして、ひと月ぶりに彼の柔らかい唇に触れた。
