第24章 それを伝え、それは伝わる
~ゴースト・マリッジ~
「ダメだ。俺は行かない。それにカリムもだ」
その時、私はジャミルの部屋にいた。私も話を聞きにいこうとしたが、彼に止められたので、部屋で聞き耳を立てている。
「カリムに危険があったら俺の一族はただじゃすまない。もしも俺が行こうとしたら、アイツは『面白そうだな!』と言ってついてくる」
それは、間違いではない。……だが多少の時間なら私がカリムにつくこともできる。カリムにこの騒動を知らせないこともできる。
カリムのせいにして、本音は自分が行きたくないだけなんじゃ……と思ったが黙っておく。
「というわけで。自分たちのことは自分たちで面倒をみてくれ」
パタン
ジャミルが戻ってきた。
「行かなくていいの?」
「話は聞いていただろ?行かないさ」
「……私、行ってこようか?」
「なんでアーヤが行くんだ?行くなよ」
「でも、大変な事態みたいだし。人手があった方がいいんじゃ……」
「ダメだ」
「そりゃ、私じゃ王子様らしさなんてないけど、万が一ってことも」
「ダメだ」
「もしかしたら女目線で考えて何か役に立つかも……っっ」
不機嫌だ。ジャミルが不機嫌をあらわにしてこちらにやってくる。固まった私の背と膝裏に腕をまわし、あっという間に、いわゆるお姫様抱っこで運ばれ彼のベッドに下ろされた。顔の両横には彼の手。足の間には彼の膝が差し込まれて逃げ場がない。
「ダメったらダメだ。絶対に行かせない。アーヤは女なんだ。ゴーストに触れられでもして、万が一バレたらどうする」
何より、と続ける。
「アーヤ、ゴーストに何しにいくのかわかってるか?」
「……、プロポーズ」
「君は、たとえ嘘だとしても、俺じゃないヤツにプロポーズするつもりなのか!?」
「……」
「俺は嫌だ」
……これは。
自惚れてもいいのだろうか。彼が、プロポーズ、そしてその先にある結婚というものを、私相手に考えてくれているのだと。
彼の気持ちを疑っていたわけではない。
ただ、この学園で過ごす期間だけではなく、その先の熱砂の国で過ごす時も。つまり、家の都合も主家の都合も絡み合うその時も、このまま一緒にいてくれるのだと。
それを口に出せるほど本気なのだと、改めて自惚れてもいいだろうか。
嬉しい。
……とても嬉しい。
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