第23章 春を待つ
さあ始めようか、とジャミルは今にも踊り出しそうだ。私も自然と頬が緩んで口角が上がっていく。
「あ、待って」
庭の花に手を伸ばす。ここ数日の空調の乱れのせいで弱ってきているが、綺麗に咲いている。枯れてしまう前に、と色の違う3つの花を摘んだ。
ジャミルに近寄り、不思議そうな顔をした彼の髪に挿していく。
「うん。とっても綺麗!」
あの時見たジャミルの衣装姿が本当に本当に綺麗だった。花があんなに似合うなんて知らなかった。
一歩後ろに下がって、彼が何か言いかける前に、続ける。
「素敵よ、春を呼ぶ綺麗な妖精さん。今度の春はジャミルが連れてきてくれるのね」
「……っ」
じわり、ジャミルの顔が赤くなった。予想外だったのだろう。視線を横に彷徨わせた。
でも、予想外だったのは私もだ。思ったままに言って、こんなに彼が照れるなんて思わなかった。
「わっ」
ジャミルが距離を詰めたことに気づかず、気づいたときは、もう彼の腕の中だった。
「……任せろ。すべてうまくいく」
夜明けの光が、踊る2人を照らしだす。
白く荒い息。紅潮する頬と耳。
目を合わせて、笑いあって。髪と花が揺れる。
春を待っている。
冬に凍ったものが、溶けて新たに芽吹く季節を待っている。
フェアリーガラが始まる。