第20章 2人の世界(第二部終)
日が沈み始めた薄暗い時間。カリムと入れ替わるように入ってきたジャミルは、暗くて表情がよく見えなかった。
「体調はどうだ?」
「……大丈夫」
「そうか」
ベッドの横に立ったジャミルは、一度息を吐き切り、そして吸うと一息で言った。
「どうして、知らない男にキスされたのを俺に言わなかった?」
「!!……知ってたの?」
「ちょうど箒に乗っていて、窓の外から見えた。抱きしめられたところで、呼ばれて地上へ戻ったが……。答えてくれ」
心臓はドクドクと多すぎるほどに血を体に回して私を焦らせる。カリムとの会話を思い出す。落ち着け、私は、ジャミルと話すためにここにいるのだ。
「突然、好きだと言われて、キスされたの。知らない人だし、私は男装しているのに何でって思ったら、混乱して、そしたら抱きしめられてた。頭が真っ白で、しばらく抵抗できなかった。ごめんなさい。情けなくて、怖くて、そしたらどんどん不安になったの。こんなこと知ったら、ジャミルが私のこと嫌いになるんじゃないかって。ごめんなさい……ごめんなさい」
「俺のことを嫌いになったんじゃないのか?」
「……っ、そんなわけ!ない!!」
怒鳴るように言った私の目の前には、ジャミルの顔があって、そのまま口を塞がれた。触れるだけの、けれどまるで食べられているかのようにねっとりと、重いキス。何度も、何度も、上書きされるように。気付けば背中と後頭部にジャミルの手がまわって抱きしめられていた。
「……悪かった」
至近距離でジャミルの目が見える。ああ、昨日と違って虹彩に光が灯っている。
「アーヤが抵抗しないで受け入れているように見えた」
そう見えても仕方がない状況だった。だから、言わなくては。そうじゃないって、言わないと。
「俺も不安になったんだ。何も言ってこないのは愛想を尽かしたからじゃないか。その後、話があると言ったときは、別れを告げに来たんじゃないかって」
「っ!違う!違うの、その……」
「知ってる。カリムに頼まれたんだろう?聞いた」
あと、その男が侵入者とグルだったってことも、学園長から聞いた。
ジャミルは穏やかに話していた。今までの私なら、それに安心して自分から話すのを止めて身を預けるだけだっただろう。でも、それはしない。彼と話すと覚悟を決めたのだから。
今、言いたいことがある。
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