第16章 紫色のヒヤシンス
ジャミルには、話さないことにしようと決めた。
本当は、全部話してしまいたかった。怖かったとすがりたかったし、キスも抱きしめられるのもジャミルにしてほしかった。
けれど、そんな話されたら、ジャミルは嫌じゃないだろうか。知らなければ、無かったことになるのに。
それから、
もしかして、嫌われたら、どうしよう。
そう考えたら、言わない方がいいと思った。私が早く忘れてしまえばいいんだ。
でも、今日は平常心で会える自信がない。
ジャミルに「今日は会えない」とメッセージを送って、布団に潜り込んだ。
コンコン
ドアのノック音で目が覚めた。
開ききらない目蓋を擦りながらドア
を開ける。
「はい……え、カリム様?」
「アーヤ、ここでは『様』はいらないぞ」
「すみません。カリム君……でもなんでここに?あの、とりあえず入ってください」
カリムがこの部屋に入ることは、今までに無いことだった。ここ最近は表向き友人の距離で接していたので、おかしなことではないのだが、なにぶん初めてのことに寝起きの頭が対応できていなかった。
お茶を出して椅子に座ると、カリムが話し出した。
「夜分に悪い。なんだかジャミルの様子が変なんだ。何か知っているか?」
ジャミルの名に一瞬体がピクリと反応したが、カリムの言うことにはさっぱり心当たりが無い。
「さあ、今日はカリム君も一緒に昼食を取ってからは会ってないですから……」
「そうなのか、昼は普通だったよな。さっきまでオレの部屋にいたんだけど、ぼーっとしてるし、動きは止まるし、あんなジャミルは見たことなくてなー」
そんなの、私も見たことがない。
「恋人のアーヤなら、何か知ってるかと思ったんだ。……そうだ!アーヤがジャミルの様子を見てきてくれないか?元気がでるかもしれない」
「え、私がですか?」
「ああ、頼む!」
カリムはニカッと笑った。
主人の頼みなら行かなくては。寝る前に考えていたこと諸々は心の奥底へ押し込んで、無理やり蓋をする。
「なあ、アーヤ」
「はい。何でしょうか?」
「ありがとな」
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