第14章 豆の日の幸せ
当日
午前9時。ハッピービーンズデーが始まった。私は農民チームなので、まずはカリムとの合流を目指そう。そして、ジャミルが手渡したであろう弁当を手放すように説得する。
スタート地点には他にも何人か集まっているが、共に行動する気は無い。そろりと近くの森に入る。
ジャミルは、私がカリムに合流するのを嫌がるだろうから、早いところ私を捕縛したいと考えるだろう。
とはいえ、スタート地点はランダムだから、運が良ければ合流は可能だ。隠れながら移動していこう。
そう決めて歩き出そうとした。
ガサッ
音がしたと思ったら、後ろからぎゅっと強く抱きしめられた。体重がかかって前傾姿勢になり、相手の長い黒髪がハラリと目の前に降りた。
「えっ。えっ!?」
「捕まえた」
「ジャミル!?」
顔を無理やり後ろの方へ向けると、ジャミルがいた。なんだか、とってもいい笑顔で。
え。なんで?早すぎじゃない?
ドキドキと速い鼓動を打つ心臓を押さえつけて、問う。
「まだ始まったばかりなのに……私、隠れてたのに……なんで?」
「運良くお互い近くのスタートだったようだな。アーヤが隠れそうなところを探したらすぐ見つかった。残念だったな」
ごめんねカリム君。力になれませんでした。
心の中で詫びつつ、ホッと安心したのがわかった。
かつてのジャミルなら、始めから勝つことを考えなかっただろう。どうやってカリムに勝ちを譲るか、その方法を考えていたはずだ。
それが今、生き生きと自分のために力を発揮しようとするジャミルを見れるのは嬉しい。……それがまあ悪人面でも。
たくさん応援するわね。自分の頬が苦笑混じりに緩むのがわかった。
最初から、まず狙うのはアーヤだと決めていた。彼女が誰かに触られるのは嫌だった。捕縛するのは、絶対に俺だ。
昨夜、アーヤに準備が見つかっても構わなかった。彼女なら行事が始まるまでは言わないでいてくれる。そうなるように、少し誘導もした。
……いや違う。言わないでいてほしかった。試したのかもしれない。俺の味方をしてくれるよな、と。最近、知らなかった彼女の交友関係を聞いたときから、俺の中で何か黒いものがドロリと付いて剥がれない。
「がんばって」と言われたときは、胸がきゅっと締まって高揚した。
もっと、欲しい。
「戻るまで大人しく待ってろよ」