第14章 豆の日の幸せ
~ハッピービーンズデー~
前夜
「……なんでシャーワルマーの準備をしてるのよ」
「明日の準備だ」
明日はハッピービーンズデー。農民チームと怪物チームで争うナイトレイブンカレッジの伝統行事だ。
「明日はハッピービーンズデーでしょう?」
訳がわからない。シャーワルマーは、熱砂の国の料理。美味しくて私も好き。美味しくてそれから、
「明日、カリムに持たせるんだ」
とても香りが強い。遠くまでその匂いは届く。
「寮長が力を出せるよう、弁当を渡さないとな」
「……」
カリムは農民チーム。ジャミルは怪物チーム。つまりはそういうことだ。
「私、農民チームなんだけど」
「知ってる」
カリムにシャーワルマーを焼かせ、カリムや他の農民チームが集まったところを一網打尽にする作戦だろう。カリムの場所はシャーワルマーの匂いでわかる。
カリムには、ぜひこの策略に気付いて欲しい。でも、長年仕える私は確信していた。カリムは気付かない。
人柄のいい主人は、……それは大変いいことでもあるのだが、「ありがとうジャミル」と言って弁当を受けとるのだ。まあ、毎日昼食を作ってるのはジャミルだからしょうがないのだが。
ジャミルはニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。なんで農民チームの私に見られてるのに平気なんだろう。
「それで?」
コツ
準備を一通り終えたらしいジャミルは、ゆっくりと近づいてくる。
コツ
「アーヤはどうする?」
コツ
「まさか」
コツ
「カリムに言いにいくのか?」
コツ
「それとも」
コツ
「恋人の俺に味方して、黙っていてくれるか?」
頬を撫でられ、額にキスされる。
「あ……」
背には腕が回されて、耳を撫でられる。
待って。どういう状況なの?混乱して固まった私を見て、ジャミルは笑いだした。
「フッ……ハハッ!……なんてな。少し困らせたくなった」
「いじわる」
「仕事と恋人、どっち取る?ってカップルでよくする言い合いなんだろう?」
「それ、私たちじゃシャレにならないから本当にやめて」
「そうだな。悪かった」
「私、カリム君とは同じチームだし、もちろん農民チームとしてがんばるから」
だけど
「ジャミルもがんばってね。今見たことは、明日の9時までは忘れてあげる」
お前らしいな。と目の前の恋人は柔らかく笑った。
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