第11章 主従疾走
~4章オーバーブロット時~
やばい
ジャミルが「蛇のいざない(スネーク・ウィスパー)」を広範囲にかけ始めたとき、まず取った行動は、全速力で寮の外に出ることだった。何はともあれ、自分が催眠にかかって、カリムを襲うなんてことがないように。
でもその後、カリム達が遠くへ飛ばされてしまったため、カリムの護衛に行かなかった自分の行動を悔やむことになる。
オーバーブロットしたジャミルの様子はぼんやりと観ることができた。いつもは観れるときは観れる、観れないときは観れない、だったのでこんな曖昧な見え方は初めてだった。
それが益々緊急事態だと思わされて、焦燥感に駆られる。
落ち着け。落ち着くんだ私。このままではカリム君もジャミルも助けられない。
呼吸を落ち着かせるのにかかったのは数分か、数十分か。
まずは主人の安否確認だ。ユニーク魔法で観てみると、カリムが「枯れない恵み(オアシス・メイカー)」で川を作っている。川には人魚姿のオクタヴィネルのリーチ兄弟。
「川を泳いでくるの!?」
誰が考えたのだろう。すごい作戦だ。
「……道案内しなきゃ」
枯れた川が復活して流れてくる川筋はどこだ?さっき彼らが飛ばされた方角を思い返し、頭で地図を広げて予測をつける。更に、スカラビア寮から見えないように、霧の魔法もそこそこの範囲にかけたい。
そこまで考えて、箒置き場へ駆け出した。
「アーヤ!よく無事だったな!」
カリム達と無事合流し、スカラビア寮まで戻ってきた。
「(ご無事で良かった。お守りできず申し訳ありません)」
「(大丈夫。この後はオレたちだけで行く。アーヤは安全なところにいるんだ)」
「(いえ、私も行きます!)」
「(いや、ここにはオクタヴィネルの寮長・副寮長もいる。だけど、ジャミルを止めた後のことは頼んだ)」
「(……かしこまりました)」
「(アーヤ)」
「(はい)」
こちらを向いたカリムが手を伸ばし、頬を撫でていく。
「(観てろよ!ジャミルの命は、絶対に助ける!)」
「!!はい」
主人の存在感に不思議な説得力がある。
……知ってる。こういう時の主人には本当に大丈夫だと思わせてくれる。そしていつも成功させてきた。
ならば私がすることも1つなのだ。
仰せの通りに。カリム様。