第98章 初めての共闘
大きな音が響いた。
ダグラスの横の壁がエースの拳によってぱらぱらと崩れる。
「は、はひ……」
「てめェなんざ殴る価値もねェ」
ずるずると座り込むダグラスをエースは冷たく見下ろす。
「行くぞ」
「あ、うん」
踵を返し屋敷を出て行こうとするエースを水琴は追い掛けた。
その背中を見ながら、先程のエースの言葉を思い出す。
あの言葉はどのような想いから出た言葉なのだろうか。
青い服に大きな黒いシルクハットをかぶった少年を思い出す。
なんと言葉を掛けようか迷う水琴の前で、ぐぎゅるるる~と盛大に腹の音が鳴った。
「あー!腹減った」
「あんなに食べたのに?!」
「運動したからもう消化しちまった。出る前にもう一回飯屋行くぞ!」
「え、ちょっと……!」
突然のことについて行けない水琴を置き去りにエースはさっさと町へと駆けて行ってしまう。
その背にもうさっきの影は見えなかった。
「__騒ぎになる前に、町を出たいんだけどなぁ」
ま、いっかと水琴もまたエースの後を追った。
町を出て数日後。
脱税疑惑によりファナンの町の領主が退任し、新たな領主が就いたという記事が新聞を賑わす。
その事件の背後に、二人の海賊がいたことを知る者は誰もいない。