第98章 初めての共闘
大きくなったなぁ、と思いながらついて行った先は市場……ではなく食事処だった。
「エース、買い出しは?」
「その前に腹ごしらえだ腹ごしらえ。買い出しは最後でいいだろ」
確かに水琴もお腹が空いた。荷物が増える前に食事をするのも理にかなっている。
随分と頼りになる船長に成長したエースに誇らしささえ覚え、水琴はカウンターへと並んで腰かけた。
この調子ならばあまり心配しなくても大丈夫かもしれない。水琴がそんなに目くじら立てずともきっと何事もなく出航できるだろう。
「いらっしゃい。見ない顔だね」
「あァ。おれ達は海__」
「買い出しに寄ったただの旅行客です。お気になさらず」
すぱん、とエースの頭を叩いて黙らせる。
前言撤回。やはり目は離せなさそうである。
「いってーな!何すんだよ」
「買い出しも済ませてないのに海賊なんて言って駐在呼ばれたらどーすんの!」
文句を言うエースに対して小声で注意すれば、エースは何が問題なのかと言わんばかりに首を傾げてみせた。
「別にそん時ゃそん時だろ」
買い出しなんて次の町ですればいい、と楽観的な様子に眩暈がする。
この調子なら彼は気付いていないらしい。
いい、エース。と水琴は幼子に言い聞かせるように店の片隅に掛けられている意匠を指し示した。
「あれが何か分かる?」
「直轄地の印だろ」
「あ、それは知ってるんだ」
「中心街や端町にもあったからな」
そういえばあそこも国王の直轄地だった。
彼らの興味は高町にしかなかったのであまり直轄地の雰囲気はなかったが、フーシャ村に比べれば遥かに駐在などの動きは多かったように思う。
それを認識しているなら話は早い、と水琴は矢継ぎ早に続ける。
「こういう町は治安を維持するために法の違反者には厳しいの。海賊なんて以ての外。町を追い出されるだけで済めばいいけど、下手すれば即指名手配だって有り得るんだからね」