第97章 17歳エースとの出逢い
「風を操るだけじゃなくて、自分が風になることも出来るんだよ」
こんな風に、と水琴の身体が消える。
ふわりと前髪が揺れたかと思えば、いつの間にか隣に水琴が腰掛けていた。
「うおわっ?!」
「ね?」
突然現れた気配に驚き後ずさればにこりと微笑む。
「近ェよ、馬鹿!」
どきどきと脈打つ心臓を誤魔化すように怒鳴る。
けらけらと笑う様子からは先程までの心細さは微塵も見えなかった。
「まァ、お前の能力は大体分かった。そこで、お前に早速一つ任務を言い渡す!」
びしりと指を突き付ければ元気よく「イエス船長!」と声を上げる。
意外にノリが良い。
「おォォ!!早ェ早ェ!」
船首に掴まり、エースはぐんぐんと速度を上げる様子に歓声を上げた。
基本風任せ波任せの帆船でこれだけの速度を出せることは滅多にない。
「この調子なら次の町まであっという間だな!いやァ便利な奴仲間にしたもんだ!」
「………」
「ん?どうした」
「いや、ちょっとデジャビュが」
隣で水琴が遠い目をする。過去にも同じようなことがあったんだろうか。こんな能力を持っていれば同じように考える奴がいても不思議じゃない。
それ以上話を続ける様子のない水琴にエースも突っ込むわけでもなく、視線を前へと向ける。
ようやく踏み出したのだ。自身の野望を叶えるための、壮大な旅の第一歩を。
「このまま一気に行くぞ!グランドラインで名を挙げて、おれの名前を世界に知らしめてやるんだ!」
風を真正面から受けながら、エースは背後から自身を見つめる水琴に気付くことなくただ前を向いていた。