第94章 抗うもの
__エース
生きていていいのかは、今でもよく分からない。
__私は、エースには生きていて欲しいよ
だけど少なくとも、生きていたいと、そう思うようにはなったから。
だから。
「おれは、こんなところで、死ぬわけにはいかねェんだよ……ッ」
力を振り絞り手を地面に付き身体を起こす。
俯くのを止め、空を見上げたエースの目に夜空とは異なる宵闇が見えた。
「エース!!」
声と共にエースの周囲に風が吹き下ろす。上空の冷えた空気が火照った身体を一時慰めた。
すぐ傍に着地する柔らかな足音が聞こえる。見れば随分と煤で汚れた水琴が心配そうにこちらを見つめていた。
「良かった、見つけられて。怪我はない?」
「おれは平気だ。だけどダダンが」
「ッダダン!」
倒れているダダンに水琴が駆け寄る。火傷を見て悲痛に顔を歪めると、水琴は腰のポーチから小さな瓶を取り出した。
「ダダン、これ飲んで」
「死に水かい?冗談じゃないよ、どうせなら酒でも持ってきてほしいとこだね……」
「お酒なら帰ったらたくさん飲ませてあげるから!今はこれ飲んで」
「それなんなんだ」
「薬だよ。火傷の具合が深いからどれだけ効くか心配だけど、何も無いよりはいいと思うから」
何とか小瓶の中身をすべて飲ませる。心なしかダダンの顔色が良くなったように見えた。
その様子を見て水琴がほっと息を吐く。だが安心している場合ではない。
「エース、ダダン支えられる?」
「いける」
「道は私が作るから、まっすぐ走って」
「分かった」
先程のように再びダダンを背負う。状況が大きく変わったわけではない。
だがエースの身体にはさっきまではなかった力が溢れているように感じた。