第94章 抗うもの
「人の数だけ幸せがある。それを決めるのに、大人も子どももないんだよ」
「………」
水琴の言葉をエースは静かに噛みしめる。
暫く黙っていたエースは、ゆっくりと水琴から離れた。
「__頼みがあんだ」
サボの様子を見てきてほしい、とエースは水琴に頼んだ。
「海賊と繋がってまで連れ戻したんだ。もしかしたら、逃げたくても逃げられない状況になってるかもしんねェ。おれたちのことを盾に脅してるとかな。
おれたちは大丈夫だからって、伝えてやってほしい」
「それはいいけど……エースたちは?」
「おれたちは大丈夫だ。大人しく従っときゃ危害は加えられねェ。夜には根城に戻るから、もしも戻らなかったら悪ィけどまた来てくれ」
「分かった。……危ないことはしないでね」
分かってる、と言うエースの言葉を信じ水琴はその場を離れる。
ルフィにも声を掛けたかったが彼の周りには一味がいて近づけなかった。それにエースと違い水琴を見つければルフィは黙ってはおけないだろう。
申し訳程度に二人の身体にそっと風を纏わせ何かあった時はすぐに気付けるように保険を掛け、水琴は踵を返した。
高町を目指し風となる。中心街までは行ったことがあるが高町は初めてだ。
中心街よりも更に整った通りを人目を避け進み、サボの気配を探る。
閑静な住宅街にそれらしき気配を見つけたが、昼は人目が気になる。水琴は日が落ちるのを待ちとある大きな屋敷へ忍び込んだ。
壁に張り付き上階の窓をそっと叩く。しばらくして内鍵が外され片側の窓が小さく開いた。
「水琴……?!」
「サボ!よかった、無事だったんだね」
元気な様子に水琴はほっと息を吐く。なんでここに?と戸惑うサボは水琴が見つかりやしないかと慌てて外を見渡した。
「暗いから大丈夫。それよりサボ、エースたちが心配してるよ」
「エース!そうだ、二人は無事か?」
「ブルージャムに何か手伝わされているみたいだけど、無事だよ。大丈夫」
「そうか、よかった」
水琴から二人の無事を聞きサボは心底ほっとしたように笑顔を浮かべる。
強張っていた身体から力が抜けるのを水琴は見逃さなかった。