第84章 ルフィ
「五年……か」
ふと水琴は髪の毛をつまむ。
「__成長してないよね、やっぱ」
あの日から一度も切っていない髪を眺める。
水琴の髪は五年前と同じ長さでさらさらと揺れていた。
様々な時が混じり合う洞窟から過去に飛んで五年。
時を飛び越えるなどというおかしな事をしたせいか、水琴の時間の流れは通常とは異なるものになってしまったらしい。
あまり長くいるとまずいのかもしれない。
そうは言っても、帰り方は依然として分からないまま。
「本当にエースと一緒に旅に出たりして」
最近ではその考えすら笑い飛ばせない。
エースが島を出るのは十七歳。
あと七年もここにいるというのは正直考えたくはない。
__別に、ここでの生活が嫌いなわけではないが。
腰に巻きつけてあったハンカチを取り、水琴は歩き慣れた道を辿りダダン一家の待つ家へと戻る。
「あ、水琴お帰りだ二ー」
「ただ今ドグラ」
「またエースと追いかけっこか?」
「うん。疲れたー!そろそろ体力追いつかないよ」
この五年でめきめきと成長したエースは今ではダダン一家の誰も敵わない。
水琴もまだ負けてはいないが、純粋に力勝負になればまず勝てないだろう。
まだ十歳だというのに末恐ろしいものだ。
そう。十歳といえば。
そろそろかな、と水琴は浜の方を見つめる。
エースが十歳なら、ルフィは七歳。
シャンクスと出会い、海賊を志した年。
ざっ__と風が吹く。
風に乗り、新たな出会いが運ばれてくる予感がした。