第79章 サボ
「俺サボ!ずっと会いたかったんだ。だけどエースが忙しいって言うから……」
「ごめんね。今はダダンさんにお世話になってるからなかなか時間が取れなくて。
__でもそれもだいぶ落ち着いたから、これからは時間取れると思うよ」
ねぇエース?と尋ねてくる声にぎくりと身体を震わす。
どうやら最初から聞いていたようだ。これはこれで気まずい。
「なぁ、水琴海賊だったんだろ?今までの冒険のこととか、仲間のこととか色々聞かせてくれよ」
「話?もちろんいいよ」
二人の様子には気づいていないサボが話を振ることで水琴の雰囲気も戻り思わずほっと息を吐く。
何やってんだ、エースもこっち寄れよと手招きするサボに誘われ、話をするために腰を落ち着けた水琴の前に移動し座った。
そういえば水琴の話はちゃんと聞いたことがなかった。
初めて会った時迷子になったと言っていたが、一体どんな奴らとどんな冒険をしていたのか。
少し興味を覚えエースは目の前の水琴を見上げる。
「んー…何から話そうかな」
過去を思い出しているのだろう。虚空に彷徨わせる瞳は優しく温かい。
それになんだかつきりとした痛みを覚える。
「……?」
「あ、そうだ。じゃあワノ国の話でも」
「ワノ国?」
「うん。あのね、グランドラインの後半にある鎖国国家で__」
楽し気に語る姿はあまり見たことがない無邪気な姿で。
話を聞いているうちに胸にもやもやとしたものが広がるのを感じた。
「__それでね、それからしばらくうちの船ではワノ国料理が流行って、私も時間があるときは作らせてもらったりしてね」
「へー。水琴って料理もできるんだ?」
「海賊になる前は自炊もよくしてたし、ある程度はね。でもやっぱりうちのコックたちには敵わないなぁ」
なぜだろう。
海賊を目指す自分にとってはとても魅力的な話のはずなのに。
___この話は、あんまり聞きたくない。