第79章 サボ
最近エースがよそよそしい。
食事の配給をしながら水琴は一心不乱に朝食にかぶりつく小さな背中を盗み見る。
相変わらずその体のどこにそんなに入っているのか。下手すれば周囲の大柄な山賊よりも多い食事量に見ているだけでお腹一杯になってきてしまう。
まぁあれだけ気持ちよく食べてもらえるというのは、作る側からすれば嬉しいことではあるが。
閑話休題。それよりも、だ。
最近エースがよそよそしいのである。
端町での一件以来エースの様子はみるみる変わり、今では水琴に対しては素直な表情を見せるようになった。
本物の海賊になると意気込む様子は水琴のよく知るエースの姿で、水琴の手が空いているときは訓練しろと水琴の手を引き森へ誘うのが最近のお決まりであった。
それがどうだ。
最近はといえば朝食が終わると忙しなく小屋を飛び出し暗くなるまで帰ってこない始末。
何かあったのかと声を掛ければ「なんでもねェ!」の一点張り。
エースだって何かしら隠したいこともあるんだろうとしばらくは見守っていたが、そんな日々が二週間も続けばそろそろ心配にもなってくる。
エースの様子が変わる頃グレイターミナルで小競り合いをしてきたらしいが、その時に何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。
しかしエースの様子からはあまり悲壮感や緊迫感は感じられず、そわそわと落ち着きのない様子はどちらかというと……
「__あ、もしかして」
はたりと水琴は一つのことに気が付く。
そういえば、“彼”と出会うときのことを水琴は知らない。
「……確かめてみよっかな」
今日も同じく食事が終わると同時に小屋を飛び出したエースの背中にいつかのように風を纏わせ。
水琴はまずは仕事だと大量の皿へと手を伸ばした。