第78章 楽しい休日の過ごし方
春といってもまだ寒さの残る季節。
冷たい風に身を晒していると、どうしてもある食べ物を食べたい欲求を抑えられなくなってくる。
山賊見習いとしてダダン一家に転がり込んでから初めてと言える休日を有効活用するべく、水琴は早速己の欲求を満たすためにエースの部屋を訪れた。
「エース!ラーメン食べに行こう!」
「……はァ?」
勢いよく現れた水琴のテンションに気後れするように、エースはぽかんと水琴を見上げる。
珍しく部屋にいると思ったらどうやら鉄パイプの補強をしていたらしい。
布を巻いた部分の握り加減を確かめながら、エースがラーメンってなんだよ、と水琴に問う。
「エースラーメン知らないの?」
「食ったことねェ」
まさかあんな美味しいものを知らないとは。
これはぜひ食べさせてあげたいと水琴は尚更やる気を出す。
「それじゃあ食べに行こうよ。ご馳走するから」
「どこに?」
「中心街」
中心街と聞いてエースの顔が分かりやすく歪む。
中心街は端町よりもう少し街の中に入り込んだエリアだ。その名の通り大抵の物はそこで揃う。
そこで暮らす人々は中流階級がほとんどだが、それなりの身分の者もいるため悪さをしに行くならともかく、普通にうろつく場所としては好んでいないらしい。
「やだよ。あそこムカつく大人たくさんいるし。店行ったって門前払い食らうに決まってんだろ」
「大丈夫!私に考えがあるから」
にっこりと自信たっぷりに笑う水琴に対して、そこまで言うならとエースも乗り気になって来たらしい。
興味を引かれたように、どうすんだ?と寄ってくる。