第70章 一進一退……?
シュピール島を出航して二日。
結局あの騒動でお泊まりも有耶無耶となり、進展も何も無く慰安は終わりを告げた。
上手く行きかけたところだっただけにエースの落ち込みも半端ない。
とんだ空回り具合に頭上を飛んでいく海鳥の鳴き声すら自分を小馬鹿にしているように感じ、笑うなら笑えとよく分からない悪態をつく。
簡単に言えば、エースは拗ねていた。
「あ、こんな所にいた」
うじうじと一人マスト上部の見張り台の中に座り込み、いじけていたところへ水琴が顔だけ出す。
「マルコが提出書類早くしろって怒ってたよ」
「あァ……後で持ってく」
それじゃあ、と顔を引っ込めかけた水琴だったが、何を思ったのか見張り台の中へひょいと入り込んできた。
「なんだ?まだ何か__」
顔を上げたエースの頬に柔らかいものが触れる。
「__続きは、また今度ね」
離れていく唇がそう囁くと、ぱっと風が舞いその姿をかき消した。
また一人取り残されたエースは呆然と温もりの残る頬に手をやる。
「__それは、反則だろ」
初めてと言える、水琴からのアプローチに身をかがめる。
今、誰かに顔を見られるのはちょっとまずい。
果たしてこれは進展なのか、そうでないのか。
その答えは、風だけが知っている。