第70章 一進一退……?
「___いい、よ」
困ったように目を伏せる水琴の頭を優しく撫で、親父のところに行くかと声を掛けようと口を開きかけた時、水琴の小さな声が耳を打った。
「……いいよ、別に。部屋……一つだって」
信じられずまじまじと見つめていれば、水琴がそっと顔を上げた。
羞恥で潤む瞳には少しの不安と、未知なものに対する恐れ。
そしてエースと同じ、期待の火が灯っていて。
そっとその頬に手を添える。
ゆっくりと顔を近づければ、応じるように瞳が閉じられた。
あと僅かでその距離がゼロになる、その刹那。
ドゴォォオオオ!!!
すぐ近くでものすごい破壊音と人の悲鳴が響き渡った。
咄嗟に水琴を庇い身構えれば、すぐ脇の壁を突き破り現れたのは馴染みの面々で。
「やべっ」
「え?きゃあ?!」
その後を追うように壁から飛び出してくる海賊と警備ロボットを認め、エースは早々に逃走を図った。
ひょいと水琴を抱きかかえ通りへと飛び出す。
海賊は別にいいが、警備ロボットに捕まるか”破壊するか”してしまえば、即座に島自体出禁対象となる。
そんなことになれば他のクルーはもとより、親父に申し訳が立たない。
「お前ら何やってんだ?!」
いつの間にか併走していた、恐らくは元凶である面々に半ば八つ当たり気味に叫ぶ。
エースの心境を知ってか知らずか、騒動の火種であるハルタはのほほんとあ、エースとのたまった。
「いやー最近のおっさんって喧嘩っ早くて困るよね。血圧高いんじゃないの?」
「ハルタ!お願いだから、これ以上油を注ぐなァァ!!」
「あーあ。これじゃあ出禁かねェ。あの店気に入ってたっつゥのに」
「お前らちゃんと見とけよな!何のためのお目付け役だよ!」
「見てた!見てたって!」
「見てねェからこうなってんだろうがぁぁあああ!!」