第69章 ハリネズミのジレンマ
「__これなら顔も見えねェから、少しはマシだろ」
エースの言葉に水琴の想いが筒抜けな様子が伝わり情けなくなってくる。
「……ごめん、エース…」
ごめんなさい、と項垂れれば謝んなと声が掛かる。
「こっちもお前の気持ちに気付かなくて悪かった」
「それを言うなら、私の方だよ。自分のことで精いっぱいで、私……」
「なら、お互い様だな」
笑みを含んだ声音に心が軽くなる。
後頭部にエースがそっと口元を寄せる気配がした。
「__なァ。次からはちゃんと言えよ」
いくら何でも何も相談なく避けられるのは傷つく。と言うエースにこくりと頷く。
「あのね、嫌なわけじゃないの」
きちんと伝えるため、水琴は気持ちを表す言葉を選びながら口を開く。
「エースと、その…こうするのは、嬉しいしもっと傍にいたいって思うんだけど。
ただ、やっぱりみんなの前だと、恥ずかしさが勝っちゃって、それで……」
「逃げ出しちまうって?」
「ごめんなさい……」
「だからいいって。要はみんなの前じゃなきゃいいんだろ」
少しずつ慣れてこうぜ、とエースは水琴の身体をくるりと回転させる。
向き合う形になったエースがこつりと額を合わせてきた。
至近距離で見つめる瞳が悪戯っ子のように細まる。
「おれだってこんなお前をみんなに見せるのは嫌だしな」
「こ、こんなって何」
「言ってほしいか?」
髪を撫で、そのまま頭にそっとキスを落とされる。途端に赤面する水琴に対してこんな感じ、とエースは楽しそうに囁く。
「__もうっ、エース!」
「なんだよ。数こなさなきゃ慣れねェだろ?」
余裕がある感じが実に腹立たしい。
ドキドキする鼓動を落ち着かせようとするがうまくいかない。
人の鼓動数は一生分決まっているという。
きっと水琴を殺すのはエースだろうと恨まし気に見上げる。