第69章 ハリネズミのジレンマ
まずい。
この状況はまずいと、水琴は焦っていた。
エースと想いを通わせ、モビーへと無事に帰ってくることができ、ほっとしたのも束の間。
当初思い描いていた穏やかな日常はどこへやら。水琴はエースとの距離を測りかねていた。
モビーに着く前までは予想の範疇だった。
宣言通りキスやハグはするものの、そのどれもが軽い、子どもの戯れのようなそれで、恥ずかしさはあるものの水琴も嬉しいと感じる余裕すらあった。
しかしモビーに帰り着き夜が明け、初めてエースと顔を合わせた時、小型船で二人でいた時とは比べ物にならない羞恥心が水琴を襲った。
モビーの噂の広がる速度は早い。
水琴とエースが付き合い始めたという話は帰還した初日からあっという間に広まった。
水琴自身もナースや仲の良いクルーから散々経緯を聞かれ、からかいと共に祝福された後だった。
そのため変に意識してしまい、逃げ出してしまったのだ。
一度避ければ次もそうなるのは想像に難くない。
普通にしていればいいのだと頭では分かってはいるものの、心はそう簡単に割り切れない。
ここに来て経験不足が裏目に出た、と水琴は項垂れていた。