第68章 降り積もる” ”
目の前にエースが立つ。
どうすればいいのか分からないまま、水琴はじっと立ち竦んでいた。
「……エー、」
最後まで名前を呼ぶ前に引き寄せられる。
気が付けばエースの胸にすっぽりと埋まっていた。
不意にゼロになる距離に水琴の心臓は大きく高鳴る。
「好きだ」
耳を掠める声に、水琴は固まった。
そして同時に胸に広がる気持ちに、ようやく水琴も”それ”が何かを知った。
小石が投げ入れられる。
かちゃん、と石がぶつかり合う音。
「ったく、お前はいつもいつも。
一人で突っ走って、何でもかんでも抱え込もうとしやがって」
こんな風に伝えるつもりは無かったっつーのに、とエースがやや恨みがましい声で低く呟く。
「でも、エース……アリシアは……?」
「だからなんでこの期に及んでアイツの名前が……あァそうか」
知らねェか、とエースが前置きをし続ける。
「アイツな。スペードメンバーのファンなんだよ」
「__ファン?」
「そ。”推し”ってやつ?」
よく知らねェけどと言うエースに対し水琴は推し……と呟く。
「それじゃあ、話っていうのは……」
「今どうしてるか知りたかったんだと」
それなら、さっきのアリシアの表情は。
その、推しである元スペードクルーに向けられたものであって……?
なんという早合点、と水琴は空を仰ぐ。