第68章 降り積もる” ”
「ごちそーさま」
「はい、お粗末様」
いつもの如く綺麗にたいらげ、満足そうに笑うエースに笑みを返し水琴は席を立つ。
食器を流しで洗い流し、コーヒーでも淹れようかと新しいカップを準備しているとがたりと席を立つ音が聞こえた。
「これか?」
「あ、ありがと」
隣にエースが並び上の棚に入れてあるインスタントのコーヒーを取り出す。
礼を言い瓶を受け取ると、意外にも近いエースと目が合った。
触れ合う身体の熱にドキリと心臓が跳ねる。
「湯は沸かすか?」
「……えっ、あ、うん。お願い」
離れていく背中に飛び跳ねた鼓動を落ち着けるよう息を吐く。
なんだか、最近調子がおかしい。
原因は分かり切っている。
呑気に二人分のお湯を沸かしながら鼻歌を歌っている”原因”をこっそり盗み見て、水琴はコーヒーの粉をさらさらとカップへと入れていく。
ハート海賊団との一件以来、どうもエースとの距離を意識してしまう。
最初はエースが意識的に詰めているのかと思ったが、彼の態度は変わらない。
そしてモビーに乗っている時と比べてみても、触れ合いが極端に増えているわけでもない。
つまり、変わったのは私の意識だということだ。
その理由もまた、分かり切っている。
___どう見ても牽制だろ。
頭の中で何度も繰り返されるシャチの言葉にすっかり調子を狂わされていることを自覚し水琴は溜息を吐いた。
こんな風に変に考えてしまうのは、今が特殊な環境だからだ。
エースと二人だけしかいないから、変に意識してしまう。
モビーに戻れば、また元の家族へと戻れるだろう。
新世界の玄関口、レッドラインまではあと少し。
早く帰りたいな、と水琴は優しく強い家族の顔を思い出していた。