第67章 向き合う心
「別に小屋に用はねェよ。通り抜けようとしただけだ」
水琴が脳内で一人もだもだと考えている間にエースがローへと答える。
エースの言葉に、それでもローの警戒は解けず殺気は増すばかりだ。
「__なら、早く行け。こっちも白ひげとやり合うつもりはない」
「なんだ。バレてんのか」
「海賊やってて気付かねぇやつはモグリだろ、”火拳屋”」
二人のやり取りを見守っていた水琴はおやと疑問を持つ。
対峙するローから殺気とは違う、異なる感情を読み取ったからだ。
ほんの僅かに漏れた、それは……
__焦り?
白ひげと出くわしたから、というわけではないだろう。
ならば、何に対しての?
「お前らがなんでこの辺にいるのか知らないが、邪魔だ。早く失せろ」
「………あの、ちょっといいですか」
さっさと追い払おうとするローに水琴が声を掛ける。エースに向いていた鋭い視線が水琴を貫いた。
「勘違いだったらすみません。もしかして、仲間の誰かが病気なんじゃ?」
「病気?」
「………」
水琴の問い掛けにローは黙り込む。
その反応に、やはりそうなのかと水琴は確信を得た。
二時間でログが溜まるはずの島に何日も滞在し続ける海賊船。
船からは離れた小屋に用があるロー。
その手に下げられた、黒い革張りの医療バッグ。
「町で病気が流行っていると聞きました。それに感染したんじゃないですか?」
「……だとしたら、なんだって言うんだ」
向けられる、強まった殺気に水琴は一瞬思い浮かんだ考えを口にするべきかどうか迷う。
だが、恐らくこれを逃せば機会はないだろう。
彼が信用に値するか、水琴の秘密を知ってどう出るかは、正直なところよく分からない。
……でも。
__麦わら屋をこっちへ乗せろ!!
__そいつをここから逃がす。一旦俺に預けろ!俺は医者だ!
あの、彼と根っこが同じなのだとしたら。