第60章 目指せアルバーナ
「これはどういうことだ……!」
報告を受け表へ出たクロコダイルを迎えたのは捕らえられたはずのMr.プリンスではなく、死屍累々と横たわるミリオンズたちだった。
声を荒げるクロコダイルの様子をエースは屋根の上から静かに見下ろす。
「あいつがクロコダイルか…」
この国の真の黒幕。
奴がこの国で何をしようとしているのか気にならないわけではないが、それを暴くのはエースの仕事ではない。
仲間相手に啖呵を切ったルフィの背中を思い出し無意識に口元が緩む。
「昔はべったりだったくせになァ…」
自分が手を出しては弟の冒険の邪魔をしてしまうと自重していたが、どうやらその心配は杞憂だったらしい。
思っていたよりもずっと立派に船長をしている弟にエースは嬉しさ半分、寂しさ半分で笑う。
「アイツも頑張ってることだしな」
ここで出来ることを探すのだと言った水琴。
白ひげという背負う名の重さに屈することなく、前を向くその姿に負けていられないなと気合を入れる。
もともとエースだって自重するような人間ではない。今回は守るべき者が多くいたため慎重になっていたが、普段好き勝手暴れるのはエースの方だ。
もちろん白ひげの名を汚さないということは大前提ではあるが。
エースの視線に気づいたのか、クロコダイルが上を向いた。
視線が合うのを待ってからエースはゆっくりと腕を上げ、親指を下に向ける。
明らかな挑発にクロコダイルの額に青筋が浮かんだ。
「くそが……」
砂をまき散らしながらクロコダイルは地を蹴った。
半分砂嵐と化した身体はまっすぐエースへと向かう。
「来た来た」
挑発に乗り飛び出してきたクロコダイルにフードの下でにんまりとエースが笑う。
「さて、鬼ごっこに付き合ってもらうぜ。七武海さんよ」
ここで自分ができることは少ない。
だからこそ、出来ることはしようとエースは一人心に決めた。
エースの首を狙う鉤爪を後ろに身体を逸らせて避け、その勢いを利用し空中で回転する。
路地裏に着地し、エースは振り返らず走る。
その背中をクロコダイルが追っていった。