第40章 風の呼ぶ声
「あたしが教えてやれるのはここまでだ。その能力を生かすも殺すも水琴次第。しっかりやんな」
迎えられる水琴の背にベイからの激励を受け振り返る。
「ベイ、私これからも頑張るね。いつかベイに風を受け継いだのが私でよかったって思ってもらえるように」
水琴の言葉を聞きベイは驚いたように目を軽く見開いたあと、微笑んだ。
「__もう思ってるさ」
あの子の風を継いだのが、水琴でよかった。
「世話になったな」
「お互い様さ。あたしも良い縁に巡り会えた」
船を前に古き仲間は固く握手を交わす。
「水琴」
ひょいと投げられた白いものを水琴は慌てて受け止めた。
開いた手に乗るのは四角い紙片。
「これ……」
「あたしのビブルカードさ。持っときな」
「いいの?」
「遣いに来る時それが無いと困るだろう?」
遣いという単語に水琴は目を丸くする。
「で、でも私まだそんな大層な仕事は出来なくて……」
「今は、だろ。いずれそれくらいこなせるようになるさ」
まぁ他の理由で来てくれてもいいけどね、とベイは楽しそうに目を細める。
「男どもに愛想が尽きたらウチに来な。面倒見てやるよ」
「……それは、楽しそうかもね」
ベイの冗談に乗りくすりと水琴は笑う。
「ありがとう。大切にするね」
もらったばかりの家族の欠片を大切に仕舞う。
一週間ぶりにマストは帆を張り、風を受け動き出した。
小さくなる誇り高き女海賊に見えなくなるまで精一杯手を振る。
やがて水平線に島が消え、水琴は名残惜しそうに手を下ろした。
「__頑張るから」
名も知らぬ前任者へそっと告げる。
そろそろ部屋へ戻ろうと手摺から身体を離し踵を返した。