第40章 風の呼ぶ声
ベイと落ち合うことになったのはとある冬島。
普段は雹や霰の吹き荒れる氷雪の島らしいが、今の季節が秋だからか最近は穏やかな日が続いているらしい。
それでも寒いものは寒い。出来る限りの厚着をして水琴は島へと降り立つ。
「平気か?」
「平気じゃない……」
隣に立つエースに震える声で返す。
風人間であることをこの時ばかりは猛烈に恨んだ。
夏は温風に、冬は寒風に。風は季節や取り巻く環境によりその温度を変える。
風人間である水琴も例外ではない。多少の温度差は平気だが、ここまで寒いと活動自体困難になる。
ナースに持たせてもらった特製カイロだけが水琴の活力の源だった。
そうして震える水琴の前に細身のコートに身を包んだ女性が近づいてくる。
「おやっさん。久しぶりだねぇ」
勝気な視線に堂々とした立ち振舞い。
腰にレイピアを差しマントをなびかせる姿はまるで耽美な女性騎士を思わせた。
「元気にしてたかい?」
「見ての通りだ。お前も変わらないようだな」
「あたしはいつまでも変わらないさ」
気安いやり取りの後ベイの視線が白ひげの傍らに佇む水琴へと向かう。
「__それで、この子が例の秘蔵っ子かい?」
「あァ。カゼカゼの実の能力者だ」
「カゼカゼの実……」
「あの、水琴といいます。初めまして、ホワイティさん」
手を差し出せばベイもまた手を出し軽く握り合う。
「ベイでいいよ。おやっさんの娘ならあたしにとっても家族だ」
「ありがとうございます、ベイさん」
「敬語もいらない。硬っ苦しいのは嫌いでね」
「はい。じゃなくて、分かった」
よろしい、とニンマリ笑う姿は好感が持てる。
「水琴。ベイは見聞色の優れた使い手だ。ここにいる間にきっちり仕込んでもらいやがれ」
「……見聞色??」
「なんだ、話してなかったのかい」
呆れた、とベイは肩をすくめる。