第39章 力の重さ
「__私、知らなかったの」
自分が持つ能力の怖さを。
「今回は、あれだけで済んだ。でも、もし次も失敗したら?取り返しのつかない怪我を、させちゃったら?」
実践あるのみだとみんなは言う。
でも、失敗は誰かを傷つけることに繋がる。
そしてその失敗が、取り返せるものだとは限らないのだ。
「そう考えると、怖い。……すごく、怖いの」
この手が赤く染まるのが怖い。
「ダメだね、私」
「ダメじゃねェさ」
「だって、海賊なのに。海賊として、みんなの傍に居たいのに。”怪我をさせるのが怖い”なんて、とんだ甘ちゃんじゃない」
「その優しさは水琴の長所だろ。海賊だからって捨てていいもんじゃねェよ」
「でも……」
「それに、お前の手はただ傷つけるだけじゃねェだろ」
「………」
「ちゃんと、守ることを知ってる手だ」
「守る……」
「だって、守ってくれたろ」
初めて実を齧った日。
エースに向けて凶器を振るう海賊に向かって風を放った時のことを思い出す。
「だから大丈夫だ」
「……なんで」
「自然系は能力者の精神に左右される。水琴が守るために風を使う限り、風がお前を悲しませることはねェよ」
「ほんと……?」
「おれを信じろ」
本当はそんなに甘くはないと分かってる。
けれど、エースの太陽のような笑顔を見ていれば、心に重くのしかかっていた暗い気持ちも溶けてなくなる気がした。
「ありがとう」
今はまだ、力を使う気にはなれないけれど。
エースの力強い言葉は、確かに水琴の救いとなった。